このページの要点
- パソコン教室の判定は、教える中身が操作そのものかを先に見る。パソコンを使うだけの講座は該当せず、オンラインであることは該当を外れる理由にならない。
- 当たる場合は概要書面・契約書面・クーリング・オフ・中途解約の上限(法42条・48条・49条)、当たらない場合も通信販売の表示と消費者契約法が残る。
- 生成物の権利は、著作物が成立するときの帰属を書くにとどめ、保護の保証はしない。教材そのものの保護と、受講者の業務での利用は分けて書く。
- 課題作品は、受講者の部分、講座の提供素材、第三者の素材、生成AIの出力に分けて権利を整理し、宣伝利用は個別の許諾を取る。
結論:スキル系スクールの規約は「何を教えるか」と「何を使うか」で決まる
Webデザイン、動画編集、画像や文章の生成AI、デザインソフトの操作。こうしたスキルを教えるオンラインスクールは、受講者が自分のパソコンでソフトを動かし、課題の作品をつくりながら学ぶ形が中心です。講座の運営は、語学や学習塾、コーチングなどの他の講座と共通する部分が多くありますが、規約を書く段になると、スキル系スクールに固有の論点が四つ現れます。
一つめは、パソコンの操作を教える講座が、特定商取引法の「特定継続的役務提供」のうち、パソコン教室に当たるのかどうか。二つめは、受講者が使うソフトや生成AIツールの利用条件と、講座の規約との関係。三つめは、受講者がつくった課題作品の権利と、ポートフォリオや宣伝への利用。四つめは、教材・録画・アカウントを守る条項の、スキル系講座ならではの書き方です。
スキル系スクールの講座の形は、大きく次の二つに分かれ、同じスキルを教えていても、規約の書き方が変わります。
スキル系スクールの二つの形
提供の仕方
個別レッスン・グループ講義(継続型)ウェブ会議での個別指導やグループ講義を、月額で継続して提供する
動画講座(買い切り型)録画した動画講座を、購入した人が一定の期間視聴する
料金の形
個別レッスン・グループ講義(継続型)月額の自動更新、あるいは数か月分のコース料金
動画講座(買い切り型)講座ごとの一回払い
特定継続的役務提供との関係
個別レッスン・グループ講義(継続型)期間・総額によっては検討が必要(このページの第2節〜第3節)
動画講座(買い切り型)役務の中身と期間・総額を確かめる。提供が録画の視聴だけの場合の整理は動画講座のページへ
規約で厚く書くところ
個別レッスン・グループ講義(継続型)予約・欠席・振替、自動更新と解約の締切、講師との関係、録画
動画講座(買い切り型)視聴期間、提供の終了、アカウント、ダウンロードや画面録画の禁止
共通の論点
個別レッスン・グループ講義(継続型)ソフト・生成AIツールの利用条件、作品の権利、教材の保護、受講環境
動画講座(買い切り型)同左
買い切り型の動画講座の規約は、動画講座・オンデマンド教材の販売規約で詳しく扱っています。
パソコン教室に当たるか:判定の順序と「操作の教授」の線
特定継続的役務提供は、長期・継続的に提供され、高額になりやすい一定の役務について、書面の交付、クーリング・オフ、中途解約といった特別な規制をかける制度です。どの役務が対象になるかは、政令で限定して列挙されています(特定商取引法41条2項)。現行の特定商取引法施行令25条・別表第四は、エステティック、美容医療、語学の教授、学力の教授(家庭教師にあたるものと学習塾にあたるものの二つの項)、「電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授」、結婚を希望する者への異性の紹介の、七つの項を挙げています。この六番目の項が、いわゆるパソコン教室です。
判定の順序は、はっきりしています。期間や金額を見る前に、教える中身がこの七つのどれかに当たるかを先に見ます。当たらなければ、期間や金額をどう設計しても、特定継続的役務提供の規制は及びません。音楽・起業支援・英会話・コーチングなどの講座では、受講のためにパソコンやウェブ会議を使うだけで、教える中身はパソコンの操作そのものではない、と整理して、パソコン教室には当たらないと整理できます。講座がオンラインで提供されることと、パソコン教室という指定役務に当たることとは、別の問題だからです。
ところが、デザインソフトや動画編集ソフトの使い方そのものを教える講座では、事情が違います。教える中身が、ソフトウェアの操作の知識や技術に当たる部分を含むからです。消費者庁の特定商取引法ガイドは、特定継続的役務提供について、役務の内容がファックスや電話、インターネット、郵便等を用いて行われる場合も広く含まれる、と注記しています。オンラインで提供されることは、対象から外れる理由になりません。したがって、ソフトの操作を教える講座は、パソコン教室に当たる可能性を、真剣に検討する必要があります。
一方で、どこまでが「操作に関する知識又は技術」で、どこからが別の内容なのかは、条文の文言だけでは決まりません。たとえば、デザインの考え方(構図、配色、ブランドの設計)、動画の企画と構成、生成AIへの指示の考え方、案件の獲得の仕方といった内容は、ソフトの操作を教えるものではありません。実際の講座は、この両方が混ざります。混ざる講座については、カリキュラムを項目に分けて、操作そのものを教える項目がどれだけを占めるのか、操作が講座の中心なのか付随なのかを確かめ、判断が分かれうる場合には、該当する前提で書類を準備するか、期間と金額の設計を要件の内側に収めるか、の方針を決めてから書類にかかります。デザインソフトの操作や動画編集が当たるかは、講座の中身に即して個別に判断される面があるため、断定せずに、教える中身の分解と、リスクの大きい側に寄せた設計で備えます。
判定の順序
- 教える中身ソフトや機器の操作そのものを教えるか。パソコンを使うだけの講座は該当しない
- 提供期間約束した提供期間が2か月を超えるか(特定商取引法施行令24条1項・別表第四)
- 総額入学金、受講料、教材費、関連商品の代金などの契約金の総額が5万円を超えるか(同条2項)
- 該当する場合概要書面・契約書面(法42条)、クーリング・オフ(法48条)、中途解約(法49条)
- 該当しない場合通信販売の表示、消費者契約法、必要なら電話勧誘販売、割賦販売法
判定は、講座ごと、コースごとに行います。月額で自動更新する形は、一回の契約が約束している提供期間と、入会金や教材費を含めた総額を確かめて判断します。
ヒヤリングの問いと理由 パソコン教室の該当性を見るための確認
講座のカリキュラムを、項目ごとに教えてください。ソフトの機能や操作を教える時間は、全体のどのくらいを占めますか。
操作の教授が講座の中心か付随かで、判断の方向が変わるためです。
提供期間は何か月ですか。最低利用期間や、更新の約束はありますか。
契約が約束している提供期間で、期間の要件を見るためです。
入会金、教材、ソフトの割引購入、テンプレートの販売などを含めた、受講者が支払う総額はいくらになりますか。
総額は、受講料だけでなく関連する支払も含めて見る必要があるためです。
個別相談で講座を勧めることはありますか。
該当性とは別に、電話勧誘販売の論点があるためです。
当たる場合の書面と設計、当たらない場合に残る規律
パソコン教室に当たるか迷う講座では、当たる場合と当たらない場合の両方で何が必要になるかを、先に整理します。
| 当たる場合 | 当たらない場合 | |
|---|---|---|
| 契約前後の書面 | 契約前の概要書面、契約後の契約書面を交付する(特定商取引法42条) | 特定継続的役務提供としての書面は不要。通信販売の表示と、申込み直前の確認画面は必要 |
| クーリング・オフ | 契約書面を受け取った日から8日間、無条件で解除できる(同法48条)。解除の通知を発した時に効力が生じる | 通信販売には法定のクーリング・オフはない。ただし、個別相談で勧誘する形は電話勧誘販売に当たることがある |
| 中途解約 | 8日経過後も、理由を問わず将来に向かって解除できる。事業者が請求できる額に上限がある(同法49条) | 法定の中途解約権はない。ただし、消費者契約法9条1項1号・10条の規制は及ぶ |
| 上限の額(パソコン教室) | 提供開始後は、提供された役務の対価に、5万円又は契約残額の20%のいずれか低い額を加えた額まで。開始前は1万5千円まで(施行令30条・31条、別表第四) | 上限は定まらないが、平均的な損害の額を超える部分は無効(消費者契約法9条1項1号) |
上限の額は、現行の特定商取引法施行令30条・31条と別表第四のパソコン教室の欄によります。数字は法令の改正で変わることがあるため、書類の作成時に現行の条文で確かめます。
「当たる前提」で書類を準備するときの設計は、二つあります。一つは、特定継続的役務提供に当たるものとして、概要書面と契約書面、赤枠のクーリング・オフ、法定の範囲に収めた中途解約の条を用意する方法です。もう一つは、期間を2か月以内に収める、あるいは総額を5万円以下に収めるコースの設計にして、要件の内側に置く方法です。ただし後者は、更新の約束や、後日の追加購入が合算されると、要件に入るおそれがあります。月額プランの自動更新や、セット販売の追加は、設計の際に合算の可能性を確認します。
分割払いを自社で受けるときは、特定継続的役務提供とは別に、割賦販売法の検討が必要です。割賦販売法の指定役務は、施行令の別表第一の三に列挙されており、そこには、電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授(8号)と並んで、技芸又は知識の教授(11号。5号から8号までに掲げるものを除く。)が置かれています。デザインや動画編集の考え方を教える部分は11号に、ソフトの操作を教える部分は8号にと、どちらに当たるかを悩むより、分割払いは割賦販売法の対象になりうると考えて設計するのが安全です。2か月以上の期間にわたり、かつ3回以上に分割して受け取る自社の分割払いが対象になります。詳しくは分割払いと割賦販売法に書きました。
また、どちらの結論でも、無料のウェブ会議の個別相談で講座を案内して申し込みを受ける形は、電話勧誘販売の問題を別に生じさせます。この点はZoom個別相談と電話勧誘販売のページにまとめました。語学や学習塾、音楽などの講座の判定の一般論は、他のサイトで扱っているため、ここでは繰り返していません。
受講者が使うソフトと生成AIツール:講座の規約との関係
スキル系スクールの規約に固有なのは、講座の運営者とは別の事業者が提供するソフトやツールを、受講者が使う前提で学ぶことです。ここから、次の三つの論点が生じます。
一つめは、ソフトの利用料を誰が負担し、誰が契約するかです。たとえば規約で、受講に必要な通信機器、パソコン、ソフトの利用契約は受講者が自己の責任と費用で用意し、ソフトの利用料金は受講者の負担とし、運営者が割引や補助などの案内をする場合でも、そのソフトの契約主体や利用条件、料金の改定、提供の停止に関する責任は、ソフトの提供事業者と受講者にある、と定める例があります。ソフトの割引を案内する場合は、ソフトの購入契約が提供事業者と受講者の間のものであり、講座の契約とは別であることを明らかにしておきます。
二つめは、ソフトや生成AIツールの仕様変更です。外部のツールは、機能、料金体系、利用規約が、予告なく変わることがあります。講座で教える手順が、ある日その通りに動かなくなったとき、受講者は講座の内容が約束と違うと感じます。規約に、外部のツールやSNSの仕様変更、機能制限、料金の変更、サービス停止によって、講座の内容と実際の動作が異なる場合があり、そのことで受講者に生じた損害に責任を負わない旨を書く例があります。ただし、このような全面的な免責は、消費者契約法8条1項1号が無効とする、事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項に当たるおそれがあります。外部の仕様変更を理由にする場合でも、講座の更新、代わりの手順の案内、該当する回の振替といった事業者側の対応を書き、責任を一律に否定する書き方は避けます。
三つめは、生成AIツールの規約と、受講者が生成した作品の扱いです。ツールごと、利用するプランごとに、商用利用が認められるか、生成物の権利がどう扱われるかが異なり、これも変わります。講座の規約が「受講者が生成した作品の権利は受講者に帰属する」と定めても、ツール提供者の規約が別の取扱いをしていれば、受講者はその規約に従います。そのため、講座の規約には、ツールごとの規約に従うこと、ツールの規約の確認は受講者が行うこと、講座は特定のツールの利用条件を保証しないことを書き、講座の資料でも、商用利用の可否は各ツールの現行の規約を確認するよう案内します。
生成AIの出力物の著作権については、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が令和6年3月15日に取りまとめた「AIと著作権に関する考え方について」が、AI生成物が著作物に当たるかを、著作権法2条1項1号の「思想又は感情を創作的に表現したもの」に当たるか否かにより、個々の生成物について個別具体的に判断するとしています。表現に至らないアイデアにとどまる指示だけでは著作物性は認められにくく、人間が創作的表現といえる加筆や修正を加えた部分には、通常、著作物性が認められると考えられる、という整理です。
この整理から、規約の書き方は二つの注意が出ます。第一に、「生成物の著作権は受講者に帰属する」という書き方は、著作物が成立する場合の帰属を述べるにとどまり、すべての生成物に著作権があることを意味しません。著作物として保護されることを講座が保証する書き方にはしません。第二に、講座が提供するプロンプトの例文や手順書などの教材そのものの権利は、運営者にあります。これを使って受講者が生成した作品について、受講者の商用利用まで一律に禁じる書き方は、仕事に使うために学ぶ受講者の目的と食い違います。禁止するのは、教材そのものの転載、販売、再配布、教材を使った講座の提供とし、受講者が自分の業務のために生成物を使うことは認める、と線を引くほうが、講座の目的と整合します。
条文例ソフト・生成AIツールの利用に関する条(書き方の一例)
- 受講者は、本講座の受講に必要なパソコン、通信環境及びソフトウェア(生成AIツールを含む。以下「外部ツール」という。)を、自己の責任と費用で用意し、その利用契約を受講者自身の名義で締結する。当方が外部ツールの割引や補助などを案内する場合でも、外部ツールの契約の当事者、利用条件、料金の改定及び提供の停止に関する責任は、外部ツールの提供事業者と受講者にある。
- 外部ツールの利用条件(商用利用の可否、生成物の権利の取扱いを含む。)は、外部ツールの提供事業者が定める規約による。受講者は、その規約を自ら確認し、遵守する。
- 外部ツールの仕様、機能、料金又は規約が変更されたときは、当方は、変更を知った後、相当な期間内に、講座の教材又は手順の案内を更新するよう努める。更新までの間に、教材の手順どおりに操作できない回があるときは、当方は、その回の内容を補う説明を行い、又は別の回に振り替える。
- 受講者が外部ツールを用いて制作した作品について、著作権その他の権利が成立する場合には、その権利は受講者に帰属する。当方は、受講者の作品が著作物として保護されること、又は第三者の権利を侵害しないことを保証しない。
- 受講者は、前項の作品を自己の業務のために使用することができる。ただし、当方が提供する教材、プロンプト集、手順書、テンプレートその他の教材そのものを、転載し、販売し、再配布し、又はこれらを用いて講座その他のサービスを第三者に提供してはならない。
第3項は、外部の仕様変更を理由にした全面的な免責ではなく、運営者の対応を書いています。第5項は、教材そのものの保護と、受講者の業務での利用の自由を、分けて書いています。
課題作品とポートフォリオ:受講者の作品の権利と宣伝利用
デザインや動画の講座では、受講者の課題作品が、講座の成果物として生まれます。作品の権利は誰のものか、運営者はそれを実績として載せてよいか、受講者はそれをポートフォリオに載せてよいか。この三つは、受講者と運営者の関係の中で最も揉めやすい点の一つです。
規約で、受講者が講座を通じて制作した成果物の著作権は、原則として受講者本人に帰属するとしつつ、運営者の提供した素材、テンプレート、教材、デザインデータなど、運営者に権利が帰属する部分は例外とする方法があります。そのうえで、運営者が受講者の制作物を実績として掲載できるのは、受講者から個別に掲載の許諾を取得した場合に限る、とします。録画データ、画像、氏名、制作物などを、受講者本人が識別できる形で広告宣伝や実績紹介に使うときも、事前に承諾を得る定めにします。作品の権利を受講者に残しつつ、運営者の提供物は守る、運営者が使うときは個別に許諾を得る、という三段の整理です。
作品の中には、権利の出どころが異なる要素が混ざります。作品を一つの塊として扱わず、要素に分けて整理します。
| 作品の要素 | 権利の考え方 | 規約に書くこと |
|---|---|---|
| 受講者が自分で制作した部分 | 著作物が成立する場合は、制作した受講者が著作者となる | 原則として受講者に帰属する旨 |
| 講座が提供した素材、テンプレート、フォント、デザインデータ | 運営者又は提供元の権利が残る | 作品に含めて公開できる範囲(ポートフォリオ、商用利用)と、素材そのものの再配布の禁止 |
| 第三者の著作物、実在の企業のロゴ、人物の写真 | 第三者の権利が及ぶ。許諾がなければ使えない | 課題で使わないこと、使う場合は受講者の責任で許諾を得ること |
| 生成AIの出力 | 著作物性は個別に判断される。ツールの規約にも従う | 著作物として保護されることを保証しないこと、ツールの規約に従うこと |
| 講師が添削して手を入れた部分 | 講師の加筆部分の扱いを決めないと、帰属が分かれる | 添削の結果を受講者の作品として使えること、講師が使う場合の許諾 |
運営者が受講者の作品を宣伝に使うときは、法律上の注意点が三つあります。第一に、作品や感想の文章を広告に使うには、著作権者である受講者の許諾が必要で、許諾を受けた者は、その利用方法と条件の範囲内でしか利用できません(著作権法63条1項・2項)。第二に、著作者には、作品に実名や変名を表示するか、表示しないかを決める権利があります(同法19条1項)。受講者が匿名での掲載を望むのに、実名を添えるわけにはいきません。第三に、作品の色や構成を運営者の都合で直して掲載すれば、同一性保持権の問題が生じえます(同法20条1項)。掲載の同意書は、媒体、期間、表示する名前の形、加工の可否、撤回の方法を、項目ごとに決めて、同意を取ります。掲載同意の項目の組み立ては、モニター募集契約のページにチェックリストをまとめました。教材の保護と、作品の宣伝利用の一般的な説明は、教材・ノウハウの保護に書いています。
受講者がポートフォリオを使って仕事を得ようとする場面も、想定しておきます。受講者が作品をポートフォリオに載せること自体は妨げず、運営者が提供した素材やテンプレートが含まれる作品は、載せてよい範囲を示すことにします。講座で制作した作品を、実際の顧客の案件として納めてよいのかも、決めておく項目です。納めるなら、提供素材の利用条件が納品先に引き継がれるのかを、事前に確認します。
教材・録画・アカウントを守る:複製の禁止、貸与の禁止、同業者の利用
スキル系の講座は、手順を画面で見せる録画やデザインデータそのものが商品の価値になります。規約では、教材等の複製、改変、公衆送信、SNSへの投稿、スクリーンショットの投稿、録画、録音、第三者への共有、転売、商用利用を、運営者の事前承諾なく行うことを禁止し、印刷も自己利用の範囲に限ります。アカウントの貸与、譲渡、共有、売買も禁止します。いずれも、スキル系の講座で、広がりやすい行為を具体的に挙げた書き方です。
この分野に固有なのは、同じスキルを仕事にしている人が、受講者として入ってくる可能性です。規約に、同業者や競合事業者による情報収集やノウハウ取得などの営業目的での利用であると運営者が判断した場合や、実務経験のある者が経歴や目的を隠して申し込んだ場合に、申込みを拒否し、承諾後でも契約を解除できるとする定めを置く例があります。講師への直接の営業、引き抜き、接触の勧誘を禁止する定めを置く例もあります。教材を守る目的は理解できますが、運営者の主観的な判断だけで申込みを拒否し、契約を解除できる形は、消費者の利益を一方的に害するとして、消費者契約法10条の検討対象になります。解除の理由は客観的に示せる事実(経歴の虚偽、教材の無断公開、同業としての営業の確認)に限り、受講料の扱いは別に書いておきます。
スキル系スクールの保護条項の確認
- 禁止する行為を、複製、画面の撮影、録画、録音、共有、転売、教材を用いた講座の提供に分けて列挙している
- 例外(モニターの宣伝協力、受講者自身の復習、運営者が許可した画面の共有)を、禁止条項と同じ条の中で示している
- アカウントの貸与、共有、譲渡を禁止し、複数の端末での利用の可否を決めている
- 同業者の申込みや情報収集目的の利用を排除する場合は、拒否や解除の理由を、客観的な事実で書いている
- 講師への引き抜きや直接営業の禁止の期間と範囲を、必要な限度に絞っている
- 違反したときの措置(利用の停止、解除、損害賠償)を書き、停止の前に通知する手順を入れている
- 受講者が行うレッスンの録画や撮影は、運営者の承諾を得る定めにし、運営者が録画する場合の同意も書いている
なお、停止や解除を「事前の通知なく」行える、あるいは「返金の義務を一切負わない」とする条項は、そのまま使うと有効性が疑われます。解除や利用停止の条項の組み立ては、規約の条項Q&Aで説明している、是正の機会を与える手順と、客観的な要件の書き方に沿って直します。
受講環境・返金・勧誘の説明:スキル系スクールの契約で食い違いやすい点
最後に、スキル系スクールの契約で、食い違いが起きやすい点を三つ挙げます。
一つめは、受講環境です。デザインや動画編集では、パソコンの性能、ソフトのバージョン、通信環境が、受講の可否を左右します。受講者の端末やソフトの不具合は受講者の責任とし、運営者の責任によらない外部サービスの障害などでレッスンが実施できなかったときは、返金の義務を負わず、振替その他の合理的な措置を講じるとした規約もあります。こうした整理を採る場合は、必要な環境(パソコンの条件、ソフト、通信)を、申込みの前に具体的に示します。申込みの後に、動かないと分かった受講者は、示された内容と違うと感じるからです。受講者側の事情で受講が難しくなったときの扱い(振替の可否、期限)も、あわせて書いておきます。
二つめは、返金の設計です。規約に、支払い完了後の返金やキャンセルを一切受け付けない、日割りの返金は行わない、運営者の裁量で利用を停止した場合も返金の義務を負わない、といった定めを置く例があります。これは、法律が返金の義務を課す場合を除くという但書を付けていても、消費者契約法9条1項1号や10条との関係で維持しにくい構造です。返金・中途解約の基本の組み立ては返金規定・中途解約の精算で説明しています。ここでは、パソコン教室に当たると判断した講座では、法定の中途解約の上限が優先して働く点に注意してください。
三つめは、勧誘の際の説明です。スキル系スクールでは、「副業で稼げる」「案件が取れる」といった訴求が、契約の動機になりやすい分野です。規約で、特定の成果や収益を保証しないことが明記される一方、即決の割引の条件を営業担当者の提示に委ねる書き方があると、規約の外の口頭の条件を契約に持ち込むことになります。口頭の割引や特典は、書面にない限り、後で争いになります。申込み前に、割引の条件、特典の内容、成果に関する説明を、書面で確認する運用に整えます。仕事の紹介や報酬を約束して受講料を払わせる形になるときは、特定商取引法の業務提供誘引販売取引の検討が必要です。取引類型の判定はオンライン講座の始め方に、一覧を載せました。
決済方法の選択と、支払方法による価格の差、手数料の扱いは、講座代金の決済方法と規約で整理しています。
起きがちなこと
よくあるご質問
デザインソフトや動画編集ソフトの使い方を教えるオンライン講座は、パソコン教室に当たりますか。
当たる可能性を検討する必要があります。特定継続的役務提供のパソコン教室は、電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授です(特定商取引法施行令別表第四)。オンラインで提供される場合も対象に含まれると、消費者庁の特定商取引法ガイドは注記しています。教える中身を項目に分け、操作そのものを教える部分の割合、提供期間が2か月を超えるか、総額が5万円を超えるかを確かめます。
ウェブ会議で受講する講座は、すべてパソコン教室ですか。
いいえ。受講の手段としてパソコンやウェブ会議を使うだけで、教える中身がパソコンの操作そのものではない講座は、パソコン教室には当たりません。音楽、起業支援、英会話、コーチングなどの講座は、教える中身を先に見て、七つの指定役務に当たらないと整理できます。ただし、通信販売の表示や消費者契約法の規制は、別に及びます。
受講者が生成AIで作った作品の著作権は、規約で受講者のものにできますか。
著作権が成立する場合の帰属を受講者とする書き方はできますが、生成物のすべてに著作権があることにはなりません。文化審議会の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)は、AI生成物が著作物に当たるかを個別具体的に判断するとし、アイデアにとどまる指示だけでは著作物性は認められないと整理しています。規約では、保護されることを保証しない書き方にします。
受講者が課題作品をポートフォリオに載せることを、禁止できますか。
作品の著作権は原則として受講者にあるため、載せること自体を禁止する定めは、講座の目的と合わず、避けるのが一般的です。講座が提供した素材やテンプレートを含む作品は、載せてよい範囲や条件を示します。運営者が受講者の作品を宣伝に載せるときは、媒体、期間、表示する名前、加工の可否、撤回の方法を決めて、個別に許諾を得ます(著作権法63条・19条・20条)。
同業者が受講者として申し込んでくるのを、断ったり解除したりできますか。
申込みを断る事由や解除の事由を、規約に定めることはできます。ただし、運営者の主観的な判断だけで解除できる形は、消費者契約法10条の検討対象になります。経歴の虚偽や教材の無断公開など、客観的な事実に基づく事由に絞り、解除の理由を通知し、受講料の扱いを書いておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。裁判例は、判決日と要旨とともに紹介しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 個人情報保護委員会 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)