このページの要点
- チャージバックは規約では止められない。備えの中心は、申込み・本人確認・提供・連絡の記録と、決済が取り消された後の精算の定め。
- 申立ては、本人以外の使用、解約したとの主張、二重請求、未提供の主張の四つに分けて備える。
- 『支払拒絶の全面禁止』『決済不能は直ちに支払う』『損害は全額負担』などの条項は、消費者契約法の面で見直しが要る。
- 決済代行会社・カード会社への資料提供は、個人情報保護法の整理とプライバシーポリシーの記載を合わせて整える。
結論:チャージバックは「起きないようにする」より、「起きたときに反証できる記録」と「損失の線引き」を先に決める
チャージバックとは、カードの会員が、カード会社に対して「この請求は支払わない」と申し立てた結果、いったん入金された売上が取り消され、請求が加盟店(講座を売る側)に戻ってくる仕組みのことをいいます。講座の主催者がこの言葉を最初に知るのは、多くの場合、決済代行会社から「このご利用について照会が来ています」という連絡が届いたときです。受講者との間では、すでに講座が始まっていたり、動画の閲覧が済んでいたりして、取り戻せるものがほとんどありません。
結論を先に述べると、次の三点に集約できます。第一に、チャージバックは規約の文言だけでは止められません。申立ては受講者と事業者の契約の外、つまり受講者とカード会社の間の手続で行われるからです。第二に、勝てるかどうかを分けるのは、申込みの時点と受講の途中で残った記録です。誰が、いつ、何に同意して、何を受け取ったかが後から示せれば、反証の材料になります。第三に、取り消された売上の穴を誰がどう埋めるかは、受講者との契約、講師や代理店との契約、決済代行会社との加盟店契約の三つに分けて、先に決めておく必要があります。
このページは、講座の受講規約・受講契約書・プライバシーポリシー・講師との契約書で、チャージバックと不正利用にどう備えるかを、条文例と確認事項で整理します。決済方法ごとの価格や手数料の設計は講座代金の決済方法と規約で、分割払いの途中で解約されたときの扱いは講座代金の分割払いと割賦販売法で、返金額の計算は返金規定・中途解約の精算で扱っています。ここでは、それらと重ならない「カード会社への申立てが入った後」の話に絞ります。
チャージバックの仕組みと、申立ての四つの類型
まず流れを確認します。ここで説明する流れは一般的な整理であり、照会に答える期限、提出できる資料、申立ての理由の分類は、カード会社や決済代行会社ごとに違います。実際の運用は、契約している決済代行会社の加盟店向けの案内で確認することが前提です。
チャージバックが起きるまでの一般的な流れ
- 受講者の申立て明細を見た会員が、カード会社に「身に覚えがない」「解約したのに請求された」などと連絡する
- 照会カード会社から決済代行会社を通じて、事業者に事実関係の照会が届く
- 事業者の回答定められた期間内に、申込みや提供の記録を添えて回答する。期間はカード会社により異なる
- カード会社の判断資料をもとに、請求が妥当かどうかが判断される。判断の基準は事業者側からは見えにくい
- 売上の取消し認められなければ売上が取り消され、受け取った代金が事業者に戻される形になる。手数料の扱いも契約による
照会に答えずにいると、事業者の言い分が示されないまま判断が進みます。連絡が届く窓口とメールアドレスを、決済代行会社に登録した最新のものにしておくことが出発点です。
この流れで、事業者が自分で動けるのは「照会に回答する」場面だけです。そこで使える材料は、講座を売る前、売るとき、売った後に残した記録に限られます。規約や契約書は、その記録の中身を決める役割を果たします。たとえば、規約に「カードの名義人は受講者本人とする」と書いてあれば、名義が違うときに確認する根拠になります。また、申込み画面で規約への同意のチェックを必須にしておけば、同意の記録が残ります。
申立ての理由は、事業者の側から見ると、おおよそ次の四つの類型に分けて考えると備えを整理しやすくなります。実際には一つの申立てに複数の事情が重なることもあります。
| 類型 | 典型的な状況 | 反証に使える材料 | 規約・契約書で手当てすること |
|---|---|---|---|
| 本人以外の使用 | 家族や第三者がカードを使った。会員は申込みを知らない | 申込みの日時・端末・メールアドレス、ログインの記録、本人確認の記録 | カード名義の確認、他人名義カードの使用禁止、未成年者の同意 |
| 解約したと主張 | 会員は解約を申し出たつもりで、請求の停止をカード会社に求める | 解約の申出の有無・日時、規約の解約条項と同意の記録、提供済みの範囲 | 解約の窓口と締切、事業者への連絡を先にお願いする条項、返金の手順 |
| 二重・誤った請求 | 同じ期間が二度請求された、金額が申込みと違う | 決済の履歴、申込み時の金額の表示、返金の記録 | 二重決済は全額返金と書く、返金優先の条項 |
| 提供されていない・内容が違う | 講座にログインできない、聞いていた内容と違うと主張 | 提供開始の通知、アクセスの記録、販売ページの表示、実施した個別セッションの記録 | 提供開始日と方法の明記、表示と規約の一致、苦情の窓口 |
最初の類型は、受講者との契約そのものが成立していたかが問題になります。残りの三つは、契約は成立しているが、その後の扱いで争いになる類型です。
不正利用を受講契約の問題としてどう整理するか:名義人・利用者・未成年者
不正利用の相談を受けると、多くの事業者は「受講者に請求できるのか」と考えます。ところが、本人以外が使ったカードの場合、請求の相手を決める前に、契約が誰との間で成立しているのかという問題があります。他人のカードを無断で使って申し込んだ人が契約の相手方で、カードの名義人は契約に関与していない、という整理が基本になります。名義人に対して、事業者が受講料の支払いを求めることは通常できません。事業者が損失を取り戻せるとすれば、無断で使った人に対する請求です。無断使用は、故意または過失によって他人の権利を侵害する行為ですから、不法行為による損害賠償の問題になります(民法709条)。ただ、その人が誰なのか分からないことがほとんどで、現実の回収は難しくなります。
だからこそ、事業者が自分で線を引ける部分は、申込みの時点に集まります。名義人と受講者が別人の場合を、規約でどう扱うかを決めておくのです。大きく三つの型があります。
名義の扱いの型
規約の書き方
名義人=受講者に限る型カードの名義人は受講者本人であることを前提にし、違反を禁止事項とする
名義人の同意を得れば可とする型家族や会社のカードを使うときは、名義人が承諾していることを受講者が表明する
確認の手間
名義人=受講者に限る型申込みフォームの名義入力、または決済画面での名義の一致で足りる
名義人の同意を得れば可とする型名義人の承諾の確認をどう取るかを決める必要がある
残る課題
名義人=受講者に限る型家族の支払いを断る形になり、機会を失うことがある
名義人の同意を得れば可とする型承諾の表明が真実でなかったとき、名義人から申立てが入るおそれは残る
どちらの型でも、表明の内容を申込み画面で受講者に示し、同意の記録を残します。規約の中だけに書いても、申込みの流れの中で読まれなければ、反証の材料としては弱くなります。
次に未成年者です。未成年者が法定代理人(通常は親権者)の同意を得ないで契約をした場合、その契約は取り消すことができます(民法5条1項・2項)。親のカードを子が使って講座に申し込んだ場合、親は「自分は申し込んでいない」と言い、子の申込みは取り消されて、カード会社への申立てにつながります。規約に「未成年者は保護者の同意を得て利用する」と書くだけでは、同意があったことを示す記録にはなりません。未成年者の利用を認める講座では、申込み時に年齢を確認し、保護者の同意の記録を残す手順までを決めておく必要があります。成年年齢は18歳ですが、18歳未満の申込者が現実に混ざる講座であれば、同じ備えが必要です。この論点は、オンライン講座の契約はいつ成立するかで扱う成立の考え方ともつながります。契約が成立したと言える状態を、申込みの流れの中で作っておくということです。
条文例カード名義と不正な申込みに関する条(条文例)
- 受講者は、本講座の受講料の支払いに、受講者本人が名義人であるクレジットカードを使用する。受講者本人以外が名義人であるカードを使用する場合は、受講者は、申込みの際に、当社所定の方法で、名義人の承諾を得ていることを表明しなければならない。
- 受講者は、他人のカードを名義人の承諾なく使用してはならない。受講者がこれに違反したときは、当社は、催告をしないで、本講座の提供を停止することができる。
- 未成年者が申し込むときは、当社所定の方法で、法定代理人の同意があることを確認できなければ、申込みを承諾しない。
- 当社は、カードの不正な使用の疑いがあるときは、受講者に対して、本人であることの確認を求めることができる。受講者が合理的な期間内に確認に応じないときは、当社は、本講座の提供を停止することができる。この場合、停止した期間は、第○条の提供期間に算入しない。
第2項と第4項の停止は、解除とは別の暫定的な措置です。停止と解除を分けて書き、停止を解く条件(確認が取れたとき)を書いておくと、受講者の権利を過度に制限する条項と受け取られにくくなります。
実務でよく見られる条項のよくある失敗と直し方
チャージバックに関する条項は、受講規約、受講契約書、プライバシーポリシー、講師や営業の担当者との業務委託契約書の四か所に現れます。実務で使われている書き方には、次のような傾向があります。いずれも、一般的な例に基づく整理です。
書き方の例(一般的な例) チャージバックと不正利用に関する条項
支払拒絶の全面禁止
事業者に責任のある場合にまで支払拒絶を封じる条項は、消費者の利益を一方的に害するものとして無効とされるおそれがある(消費者契約法10条)。受講者側の抗弁を全部塞ぐ書き方は、かえって条項全体の信頼を損なう
決済不能時の「直ちに」
支払いがされない場合の解除は、相当の期間を定めた催告が原則(民法541条)。名義人の不正利用の被害を受けた受講者に「直ちに」支払えと求めると、紛争を長引かせる
手数料と損害の全額転嫁
損害の範囲が不明な定めは、解除に伴う違約金なら平均的な損害を超える部分が無効になる(消費者契約法9条1項1号)。契約を続けたまま違反に科すものは、民法420条の賠償額の予定として検討する
決済事業者に関する全部免責
債務不履行や不法行為による責任の全部免除は、消費者契約では無効(消費者契約法8条1項1号・3号)。一部免除でも、故意又は重大な過失による場合まで免除する書き方は無効で(同条1項2号・4号)、軽過失の場合にのみ適用されることを条項の中で明らかにしていない一部免除も無効のおそれがある(同条3項)
売上減額の事後調整
契約の終了後に申立てが入ると、控除の相手となる『次回以降の報酬』がなくなる。残額をどうするかを書かないと、請求の根拠が民法703条の不当利得だけになる
上の五つのうち、最も実害が出やすいのは、最初の「支払拒絶の全面禁止」です。カード会社への申立てを禁じたい事業者の気持ちは理解できます。しかし、受講者は規約があっても、カード会社に申し立てることができます。規約は事業者と受講者の契約であって、カード会社との契約を縛ることはできないからです。禁じる文言の効果は、むしろ受講者との間で、事業者が不公正な条項を使ったという評価につながる危険の方が大きくなります。現実的な書き方は、禁止ではなく、「申立てをする前に事業者へ連絡して手続を試してほしい」という協力のお願いにとどめ、事業者の窓口と返金の手続を具体的に示すことです。
決済が取り消されたときの精算:受講者への請求・アクセスの停止・手数料
チャージバックで売上が取り消されると、事業者は三つのことを決めなければなりません。受講者に請求するか、講座のアクセスをどうするか、手数料などの費用を誰が負担するかです。順に整理します。解説は一般的な内容です。
受講者に請求する場合の道筋
カード会社の判断で売上が取り消されたとしても、受講者と事業者の間の契約が自動的に消えるわけではありません。受講者が実際に講座を申し込み、提供を受けていたのであれば、受講料の支払義務は残ります。事業者は、受講者に対して、代替の方法(銀行振込など)で支払うよう求めることができます。支払いがされないときは、期限を定めて催告したうえで、契約を解除する手順になります(民法541条)。遅延損害金を定めるときは、年14.6%を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項2号)。
ただし、受講者が『自分は申し込んでいない』と主張しているときは、まず、本当に本人が申し込んだのかを確認する必要があります。名義人が不正利用の被害者であれば、請求は被害者を二重に苦しめます。事業者の側で記録を確かめ、本人の申込みと確認できるときに限って、請求の手続に進みます。この順序を手順書に書いておくと、現場の担当者が誤って被害者に督促するのを避けられます。
アクセスの停止と、返金済みの場合の扱い
売上が取り消された以上、代金が支払われていない状態の講座を提供し続ける理由はありません。規約に、決済が取り消されたときは、事業者が講座のアクセスを停止できると書きます。この停止は、解除と区別します。停止中に受講者が代替の方法で支払えば、停止を解いて再開できるからです。停止期間は、提供期間に算入しないと書いておかないと、受講者が『期間が過ぎたから払わない』と主張する余地が残ります。
もう一つ注意したいのは、返金を済ませた後で申立てが入る場合です。受講者が事業者に解約を申し出て、事業者がカード決済の取消しや返金を行った。ところが、受講者はそれと別にカード会社へ申立てをしていて、売上が二重に戻ってしまう。この場合、事業者は、返金と取消しの二重に受講者へ金銭を戻した形になり、一方は法律上の原因がありません(民法703条の不当利得)。規約に、返金を行った後にカード会社を通じて同じ代金が戻された場合は、受講者がその超過分を事業者に返す、と書いておくと請求の根拠が明確になります。あわせて、返金の記録を日付と金額、手段つきで残し、照会に回答するときの材料にします。
条文例決済の取消しと二重回収に関する条(条文例)
- カード会社その他の決済事業者の手続により、受講料の全部又は一部の決済が取り消されたとき、当社は、受講者に対し、取り消された金額の支払いを、銀行振込その他当社の指定する方法により請求することができる。受講者は、当社が定める期限(請求の通知の日から14日以内)までに、これを支払う。
- 当社は、前項の請求をするときは、あらかじめ、受講者に対し、決済が取り消された事実と、請求する金額及びその内訳を通知する。受講者が、本人が申し込んだものではないと主張するときは、当社は、受講者の本人確認の結果と申込みの記録を確認し、その結果を受講者に通知するまでの間、請求を保留する。
- 第1項により決済が取り消された場合、当社は、受講者が前項の支払いをするまでの間、本講座のアクセスを停止することができる。停止期間は、提供期間に算入しない。
- 当社が受講者に対し、本契約に基づく返金をしたにもかかわらず、カード会社その他の決済事業者の手続により、同一の代金が受講者に戻されたときは、受講者は、重複して受領した金額を当社に返還する。
- 第1項の取消しが、当社の誤った請求、二重の決済その他当社の責めに帰すべき事由によるときは、本条の請求はしない。
第2項の保留と第5項の除外は、被害者になりかねない受講者に請求が及ぶのを防ぐ手当てです。条の見出しは、受講者が読んで『何をされるのか』が分かる言葉にします。
手数料とチャージバック対応の費用
決済代行会社との加盟店契約には、チャージバックが発生したときに、事業者が決済代行会社へ一定の手数料を支払う旨の定めが置かれていることがあります。金額と条件は契約ごとに違うため、一般論で額を示すことはできません。確認すべきなのは、①手数料が売上の取消しとは別に請求されるのか、②反証に成功した場合に手数料が戻るのか、③申立ての件数や割合が一定を超えたときに、取扱いの停止や審査のやり直し、入金の留保が行われる条項があるか、の三点です。講座の売上が増えるほど、これらの条件は事業の継続に影響します。
計算の例を一つ示します。数字は、考え方を説明するための仮のものです。受講料を一括で120,000円(税込)とし、決済手数料率を仮に5%、チャージバックが成立したときの手数料を一件あたり5,000円とします。
| 項目 | 金額 | 説明 |
|---|---|---|
| 受け取った受講料 | 120,000円 | カード決済で入金された額 |
| 決済手数料(5%) | 6,000円 | 入金時に差し引かれる前提。取消しの際に戻るかは契約による |
| 売上の取消し | ▲120,000円 | チャージバックが成立すると、受講料が戻される |
| チャージバック手数料 | ▲5,000円 | 仮の額。加盟店契約による |
| 回収できなかった場合の事業者の負担 | 最大131,000円 | 取消しの120,000円に、戻らない決済手数料6,000円とチャージバック手数料5,000円を足した額(手数料が戻る契約ならこれより小さくなる) |
| 受講者に請求できる範囲 | 120,000円(本人が申し込み、提供済みの場合) | 二重回収を除き、提供の範囲で精算する。手数料は実費の範囲で、根拠を示して請求 |
この例で分かるように、金額が大きいのは、売上の取消しそのものです。手数料より、取り消された代金を受講者から回収できるかが、事業の損益を左右します。本人の申込みと確認できないときの損失は、事業者が負担します。
反証のための記録と、決済代行会社・カード会社への資料提供の同意
照会に答えるときに必要な記録は、四つに分けて考えると準備しやすくなります。これらの記録を、規約とプライバシーポリシーの二つの文書で、取得と提供の根拠を整えておく必要があります。
反証の材料として保存を検討する記録
- 申込みの記録:申込みの日時、メールアドレス、氏名の入力、決済画面の表示内容、規約と特定商取引法に基づく表記への同意のチェックの記録、同意した時点の規約の版。
- 本人と名義の記録:カード名義と受講者名の一致の確認結果、本人確認を求めた場合はその経過、保護者の同意の記録(未成年者の場合)。
- 提供の記録:提供開始の通知、会員サイトへのログインの記録、動画の視聴状況、実施した個別セッションの日時と出席の記録、受け取った課題の提出記録。
- 連絡の記録:受講者からの問い合わせ、解約や返金の申出と事業者の回答、返金の処理の日付と金額。
このうち、同意した時点の規約の版は見落とされがちです。規約は改定されることがあり、申込み後に変えた規約の条項を、前に申し込んだ受講者との契約の内容として示しても、反証としては弱くなります。規約を改定するたびに、版と施行日を保存し、申込みの記録とひもづけられるようにします。規約を契約の内容にする方法は、民法548条の2が定める定型約款の仕組みで整理でき、申込みの前に、規約を契約の内容とする旨を表示しておくことが要点です。受講者にとって一方的に不利な条項は、合意をしなかったものとみなされることがあります(同条2項)。チャージバックの場面で事業者の主張を支えるのは、規約が受講者に示されたという事実と、その内容が合理的であることの両方です。
次に、資料の提供です。反証には、受講者の氏名、メールアドレス、申込みの内容、場合によっては契約書の写しや、ログインの記録が含まれます。これらを決済代行会社やカード会社に提供するには、個人情報保護法上の整理が必要です。受講者の個人データを事業者以外の者へ渡すときは、あらかじめ本人の同意を得るのが原則です(個人情報保護法27条1項)。一方、利用目的の達成に必要な範囲で、個人データの取扱いを委託する場合は、委託先は第三者に当たりません(同条5項1号)。この場合、委託先の安全管理を監督する義務が事業者に残ります(同法25条)。決済代行会社への提供が委託に当たるのか、第三者提供に当たるのかは、契約の内容や情報の使われ方によって異なるため、プライバシーポリシーでは、提供先の種類(決済代行会社、カード会社)と提供の目的(決済、不正利用の防止、チャージバックへの対応)を具体的に書いておくのが安全です。
実務では、契約書や規約に『受講者がカードなどで支払ったときは、カード会社や決済代行会社から不正利用の調査や照会のために契約書の開示を求められたとき、事業者は契約書の全部または一部を開示できる。受講者はあらかじめこれに同意する』といった条項が置かれることがあります。反証に必要になる書類をあらかじめ開示できる形にする点では有用です。ただし、開示する範囲は、調査に必要な範囲に絞ると書き、他の受講者の情報や、反証に関係のない情報が含まれないようにします。個人情報の利用目的は、取得の時点で本人に明示する必要があるため(個人情報保護法21条2項)、プライバシーポリシーの利用目的に、不正利用の防止とチャージバックへの対応を挙げておきます。
条文例資料の提供に関する条(条文例)
- 受講者がクレジットカードその他の決済手段で受講料を支払った場合において、決済事業者又はカード会社から、不正利用の調査、決済の内容の確認又は支払いに関する照会のために、本契約に関する資料の提供を求められたときは、当社は、その調査等に必要な範囲に限り、受講者の氏名、連絡先、申込みの内容、決済の内容、受講の状況その他の資料を、これらの事業者に提供することができる。
- 前項の資料の提供の目的、提供先の種類及び提供する情報の範囲は、当社のプライバシーポリシーに定める。
- 当社は、前項の資料のうち、調査等に必要でないものを提供しない。
第3項は、提供する範囲に歯止めを置くものです。範囲を示さずに『必要な情報を提供する』とだけ書くより、受講者に説明しやすくなります。
ヒヤリングで確認すること
チャージバックの備えは、規約を整えるだけでは完成しません。講座の売り方、決済の仕組み、売上の分け方によって、手当てすべき箇所が変わるからです。書類を作る前に確認しておく項目を、確認する理由とあわせて挙げます。
ヒヤリングの問いと理由 決済とチャージバックの備え
使っている決済代行会社の加盟店契約に、チャージバックの手数料、取扱いの停止、入金の留保に関する定めはありますか。
手数料と事業継続への影響は、契約の定めで決まるため。額や条件は一般論では分からず、契約書の文言の確認が必要です。
照会が来たときの連絡先は、誰のメールアドレスに届き、誰が回答しますか。回答の期限は何日ですか。
照会に答えずに期限を過ぎると、事業者の言い分が示されないまま判断が進むため。担当者の不在でも期限を逃さない体制が要ります。
申込みの画面で、規約と特定商取引法に基づく表記への同意を、チェックで取っていますか。その記録は残りますか。
同意の記録は、反証の最も基本的な材料です。決済ボタンだけで申込みが完結する流れでは、同意の取得方法を特に確認します。
カード名義と受講者名が違う申込みは、どう扱っていますか。家族や会社のカードで払う受講者はいますか。
名義の扱いの型(本人に限る、承諾を得れば可)を選ぶため。実態として多い使い方を無視した規約は、現場で守られません。
未成年者や学生の申込みはありますか。年齢の確認と保護者の同意は、どう取っていますか。
未成年者の契約は取り消せるため、取り消されたときの損失が事業者に及ぶ。年齢確認の手順がなければ、規約の文言だけでは足りません。
受講者からの解約・返金の申出は、どこで受け付けていますか。LINE、メール、フォームのどれですか。
受講者が事業者に伝えたつもりでいる連絡と、事業者が把握している連絡がずれると、解約したのに請求された、という申立ての原因になるため。受付の窓口を一本化し、受付の記録を残します。
返金の方法は、決済の取消し、振込のどちらですか。返金済みの受講者に、カード会社への申立てが重ならないよう、何か手順はありますか。
返金と申立てが二重に起きると、事業者が二重に金銭を戻した形になるため。返金の記録と、受講者への通知の文面を整えます。
講師、営業担当、代理店に売上の分配をしていますか。分配のあとにチャージバックが起きたとき、どう精算しますか。
分配済みの金額の精算方法を契約に書かないと、取消しの損失を誰が負うかで揉めるため。契約終了後に発生した分の精算の期限も確認します。
提供の記録(ログイン、視聴、セッションの出席)は、どのツールにどの期間残りますか。
ツールによっては、一定期間でログが消えるため。保存の期間は、照会を受け付ける期間に合わせて決める必要があります。
起きがちなこと
よくあるご質問
チャージバックを規約で禁止することはできますか。
規約で禁止しても、カード会社への申立て自体は止められません。規約は受講者と事業者の契約であり、受講者とカード会社の契約を縛らないためです。受講者の利益を一方的に害する条項として、問題にされるおそれもあります(消費者契約法10条)。禁止ではなく、先に事業者へ連絡してほしい旨のお願いと、解約・返金の窓口と手順を具体的に示す形が現実的です。
不正利用されたカードで申し込まれた場合、カードの名義人に請求できますか。
名義人が申込みをしていないのであれば、通常はできません。契約の相手方は、無断でカードを使った人だからです。無断で使った人への請求は不法行為(民法709条)の問題になりますが、本人が特定できないことが多く、回収は難しくなります。名義と受講者の一致を申込みの時点で確認し、記録を残すことが、損失を減らす現実的な方法です。
決済が取り消されたとき、受講者にどう請求すればよいですか。
本人が申し込み、提供を受けていた場合は、受講料の支払義務は残ります。代替の方法での支払いを、期限を定めて求め、応じないときは催告したうえで解除する手順です(民法541条)。ただし、本人が申し込んだものではないと主張しているときは、先に申込みの記録と本人確認の結果を確認し、請求を保留する扱いにします。遅延損害金は、年14.6%を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項2号)。
照会に反証するために、どんな記録を残しておけばよいですか。
申込みの記録(日時、同意のチェック、規約の版)、本人と名義の記録、提供の記録(ログイン、視聴、セッションの出席)、連絡の記録(解約や返金の申出と回答、返金の処理)の四つです。保存の期間は、契約している決済代行会社の照会の受付期間に合わせて決め、プライバシーポリシーにも書いておきます。
決済代行会社やカード会社に受講者の情報を渡すとき、同意は必要ですか。
個人データを第三者に提供するときは、原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法27条1項)。利用目的の達成に必要な範囲で取扱いを委託する場合は、委託先は第三者に当たりませんが(同条5項1号)、委託先の監督の義務が残ります(同法25条)。どちらに当たるかは契約の内容で変わるため、プライバシーポリシーに、提供先の種類と目的を具体的に書いておくのが安全です。
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本ページは一般的な情報提供です。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。裁判例は、判決日と要旨とともに紹介しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 個人情報保護委員会 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)