法人向け研修の受講契約と消費者契約法の適用除外

会社が申込者になるときは、消費者契約法より先に、誰が契約の当事者かを決めます。受講する社員の位置づけと個人情報の扱いまで、五つの論点で整理します。

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このページの要点

  • 法人が自分の名前で申し込めば消費者契約法の消費者に当たらない(同法2条)。社員が自分の名義で申し込み会社が補助する形は、個人向けの契約になり得る。
  • 受講者を契約の当事者にしない構成でも、民法537条の第三者のためにする契約として直接の請求権を持ち得る。権利の内容と限度を規約に書く。
  • 受講履歴を会社に渡すには、同意・委託・共同利用のいずれかで整理し(個人情報保護法27条)、報告する項目を契約書に列挙する。
  • 法人向けの中途解約に消費者向けの「平均的な損害」を流用せず、計算式で書く。責任の上限は直近12か月の受講料などで、故意・重過失を除外する。

結論:法人向けの受講契約は、消費者契約法の有無より先に「誰が契約の当事者か」を決める

個人向けに売ってきたオンライン講座を、会社が社員のために買いたいと言ってきたとき、規約をそのまま使ってよいのか、それとも別の契約書が要るのかは、最初に迷うところです。答えを先に書きます。会社(法人)が自分の名前で申し込み、自分で代金を払うのであれば、消費者契約法の「消費者」にはなりません。したがって、消費者向けの無効規定(損害賠償責任の免除の制限、違約金の制限、一方的に不利な条項の無効)は、その契約には直接及びません。ただし、これで「何を書いても有効」になるわけではありません。民法の一般原則(公序良俗、信義則)は残り、規約の書き方によっては、受講する社員個人が当事者に見えてしまう場面があります。

法人向けの受講契約で実際に問題になるのは、条文の細かさよりも、次の五つです。このページでは、この順に説明します。

  1. 契約の当事者:会社が当事者なのか、社員個人が当事者なのか。会社が費用を補助するだけの場合はどう扱うか。
  2. 受講者との関係:実際に動画を見る社員を、契約上どう位置づけ、禁止事項や個人情報をどう扱うか。
  3. 受講枠とアカウント:何人分の枠を買ったのか、退職や異動で人が入れ替わるとどうするか。
  4. 受講履歴の報告:進捗やテストの点数を、申込みをした会社に伝えてよいのか。
  5. 料金・期間・責任の上限:請求書払い、中途解約、賠償の上限を、消費者向けとは別の発想で組み立てる。

契約がいつ成立するかの一般論はオンライン講座の契約はいつ成立するかで、条項ごとの基本は利用規約・受講契約書の条項Q&Aで説明しています。ここでは、会社が申込者になる場合に固有の論点に絞ります。

消費者契約法は、法人相手の契約にどこまで及ぶのか

消費者契約法は、「消費者」と「事業者」の間の契約に適用されます。消費者とは、個人のうち、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除いたものです(同法2条1項)。事業者とは、法人その他の団体、および事業として又は事業のために契約の当事者となる場合の個人です(同条2項)。つまり、法人は常に事業者であり、法人が申込者である契約は、消費者契約には当たりません(同条3項は、消費者契約を消費者と事業者の間の契約と定めています)。

ところが、法人向けの研修の申込みは、実際の流れでは次のように分かれます。契約の当事者が誰になるかで、消費者契約法の扱いが変わります。

法人向けの申込みの三つの形と、消費者契約法の見え方
申込みの形契約の当事者消費者契約法設計の要点
会社名義で申し込み、請求書で会社が支払う会社及ばない(法人は事業者)法人向けの規約・申込書を使う。受講者は契約の当事者にしない。
社員が自分の名前で申し込み、会社が後から費用を補助・精算する社員個人及び得る。自己の学びのための申込みなら、事業のための契約とは言い切れない個人向けの規約を使い、会社の補助は契約の外の事情として扱う。法人向けの特約を押しつけない。
個人事業主が屋号で、仕事のために申し込む個人事業主事業のための契約であれば及ばない事業のための申込みであることを申込時に確認し、記録を残す。

三つめは「事業のため」かどうかの実質で決まります。仕事というより自己啓発に近い申込みは、個人向けの扱いを前提にします。

二つめの形が、法人向けの契約で最もつまずきやすい場面です。申込フォームで社員が自分のメールアドレスと氏名を入れ、決済は会社のクレジットカードや会社名義の振込で行う、という流れは珍しくありません。支払う人が会社でも、申込みの意思表示をした人が社員個人であれば、契約の当事者は社員個人であると見られます。法人向けの特約(賠償の上限を低くする、違約金を定める、規約の変更を一方的に行う)を置いても、当事者が個人であれば、消費者契約法の規定が問題になります。

法人向けの申込窓口を分けるのが、最も安定した整理です

個人向けのフォームと法人向けのフォームを分け、法人向けのフォームでは「法人名、所在地、代表者名、申込担当者の氏名と役職、請求書の宛名」を必須にします。法人向けのフォームには、受講者の氏名やメールアドレスを後から登録する画面を設けます。こうしておくと、誰が契約の当事者なのかが、申込みの時点で記録に残ります。

「事業のため」の確認を、申込みの条件に組み込む

法人向けの講座を、法人その他の団体からの申込みに限る方法があります。この場合は、申込みをする側に「事業のために申し込むこと」を確認してもらいます。個人事業主から申込みを受ける場合も、屋号と事業内容を申込時に尋ね、事業のための契約であることを確認します。特定商取引法にも、営業のために又は営業として締結する契約には、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の規定を適用しないとする定めがあります。ただ、この適用除外の文言は「営業」を基準にしており、自治会やNPO、一般社団法人のような非営利の団体が申し込む場合は、営利を目的としないため、当てはまるかどうかが分かりにくくなります。そのため、規約や申込書では、「営業のため」ではなく「事業のため」に申し込む旨を確認する書き方が使われています。

条文例申込資格と事業のための確認(条文例)

  1. 本契約は、法人その他の団体(以下「申込法人」といいます。)からの申込みに限り受け付けます。個人からの申込みは、事業として又は事業のために申し込む個人事業主であって、当社が屋号及び事業内容を確認できた場合に限り、申込法人に準じて受け付けます。
  2. 申込法人は、本契約を事業のために締結すること、及び申込みを行う者が申込法人を代表して契約を締結する権限を有すること、又は代表者から当該権限を与えられていることを表明し、保証します。
  3. 申込法人の従業員その他の者が自己の名義で申し込んだ場合は、当該申込みは個人向け受講規約によるものとし、本契約の適用を受けません。申込法人が当該申込みについて費用を負担したことは、申込法人を本契約の当事者とするものではありません。
  4. 当社は、前二項の表明が事実と異なることが判明した場合、催告なく本契約を解除することができます。

第3項は、前の節の二つめの形(社員が自分の名義で申し込む形)を、あらかじめ個人向けに振り分けるための定めです。表明の文言だけで消費者としての保護が消えるわけではないため、実態の確認と記録の保存を併せて行います。

受講者(社員)は契約の当事者なのか:三者の関係を決める

法人向けの受講契約には、運営者、申込法人、実際に受講する社員の三者が登場します。個人向けの規約は二者の関係を前提に書かれているため、そのまま流用すると、社員に何を守らせ、苦情を誰が受け付け、違反したら誰に請求するのかが、書かれていない状態になります。

個人向けの受講規約と、法人向けの受講契約の違い

個人向け法人向け

契約の当事者

個人向け受講する本人

法人向け申込法人。受講者は当事者としない

受講者の同意

個人向け本人が規約に同意

法人向け申込法人が受講者に規約を守らせ、同意を得る

個人情報

個人向け本人から取得

法人向け会社から受講者の情報を受け取る。会社への報告の可否が論点

個人向けの規約のどの条を直すかを洗い出す一覧としても使えます。

受講者を当事者にしない構成と、その落とし穴

受講者を契約の当事者とせず、申込法人が「自己の責任で指定する従業員その他の者に利用させる」という構成にするのは、法人向けのサブスクリプション型サービスの契約書で見られる書き方です。この構成では、利用者による利用や予約、キャンセル、無断欠席は申込法人の行為とみなし、利用者からの苦情や請求は申込法人の責任で処理する、と定めています。運営者から見れば、窓口が1社に集まり、受講者一人ひとりと個別に交渉する必要がなくなります。

ただし、この構成には二つの落とし穴があります。一つは、民法537条の第三者のためにする契約です。運営者が申込法人に対して「受講者に講義を提供する」と約束していれば、受講者は、その利益を受ける意思を表示した時に、運営者に対して直接サービスの提供を求める権利を持ちます(同条1項・3項)。受講者が最初のログインで「利用する」を押した場合などが、これに当たる余地があります。受講者を当事者にしないと書いても、実質的には受講者が直接の請求権を持つ形になり得るので、規約には、受講者の権利の内容(受講できること、教材を使えること)と、できないこと(契約の解除、料金の返還の請求、規約の変更への異議)を分けて書きます。

条文例受講者の位置づけと遵守(条文例)

  1. 申込法人は、自己の責任と費用により、受講者(申込法人の役員及び従業員のうち、申込法人が本講座の受講を指定した者をいいます。)を選定し、登録し、管理するものとします。
  2. 申込法人は、受講者に対し、本契約及び当社が定める利用ルールを遵守させ、受講者が初めて本講座にログインする前に、利用ルールに同意させるものとします。当社は、同意の記録の提出を求めることができます。
  3. 受講者は、本契約の当事者ではありません。受講者が本講座を利用できる権利は、本契約に基づく範囲に限られ、受講者は、本契約の解除、受講料の返還、本契約の変更について、当社に請求し、又は異議を述べることができません。
  4. 受講者が利用ルールに違反した場合において、その違反が申込法人の指示によるとき又は申込法人がこれを知りながら是正しなかったときは、申込法人は、その違反について責任を負います。当社が違反の内容を通知した後も是正されなかったときは、申込法人は知っていたものとして扱います。
  5. 受講者からの質問、苦情その他の申出は、原則として申込法人の担当者を通じて当社に伝えるものとします。ただし、受講サポートに関する通常の問合せは、受講者が当社に直接行うことができます。

第3項で受講者の権利の内容と限度を明示し、第4項で責任を負う場面を限定しています。第5項は、サポートまで会社経由にすると運用が止まるため、通常の問合せを直接認める形にしています。

アカウントと受講枠:退職・異動・追加をどう扱うか

法人向けの契約では、「何人分のアカウントを買ったか」「その人数を途中で増減できるか」「社員が退職したら、そのアカウントを後任に付け替えてよいか」が、毎回の論点になります。個人向けの規約にある「アカウントの共有禁止」「ID・パスワードの第三者への提供禁止」をそのまま使うと、会社が複数の社員に1つのアカウントを使い回す、という使い方と衝突します。逆に、講座のIDを複数の社員で使い回せることを黙認すると、1人分の料金で全社員が受講する状態になり、料金の設計が成り立ちません。

規約や申込書には、次の三点を決めて書きます。

  • 枠の単位:アカウント1つにつき1人(記名式)か、同時に受講できる人数の上限(同時利用式)か。記名式が多く、同時利用式は別の価格表が必要です。
  • 入れ替え:退職や異動に伴う入替えを認めるか。認めるなら、年に何回まで、いつまでに申し出るか、前任者の受講履歴や修了証をどうするか。
  • 追加と減員:期間の途中でIDを増やすときの料金の按分方法と、減らすときの扱い(減員を認めないことも多いです)。会社が契約上の地位を別の会社に譲渡する場合は、受講者の入替えとは別に、相手方の承諾が必要です(民法539条の2)。

途中でIDを追加する場合の料金は、月割で按分するのが一般的です。計算の方法を契約書に書いておかないと、追加のたびに見積りを取り直すことになります。次の数字は、説明のための仮のものです。

途中追加のIDの料金の計算例(仮の数字)
項目内容計算
契約の内容年間契約(12か月)、1IDあたり月額3,000円(仮)―
追加の時点契約開始から5か月が経過した時点で、5ID追加残りの期間=12か月−5か月=7か月
追加分の料金追加したIDの残期間分を、契約の終期に合わせて請求3,000円×5ID×7か月=105,000円

数字は仮のものです。更新時に追加分を含めた人数で見積りを出し直すか、追加分だけ終期を別にするかも、あらかじめ決めておきます。

条文例アカウントと入れ替えの条(条文例)

  1. 本講座のアカウントは、受講者1名につき1つを付与する記名式とし、申込法人は、アカウントを複数の者で共有し、又は受講者以外の者に利用させてはなりません。
  2. 申込法人は、受講者が退職その他の事由により本講座を利用する必要がなくなったときは、速やかに当社に通知するものとし、当社所定の方法により、契約期間中に限り、年に○回まで、受講者を別の者に入れ替えることができます。入れ替えにより、前の受講者の学習履歴は新しい受講者に引き継がれません。
  3. 契約期間中にアカウントを追加するときは、追加した日の属する月から契約期間の終了月までの月数に、追加したアカウント数及び当社が定める月額料金を乗じた金額を、追加料金とします。月の途中で追加したときも、その月を1か月として計算します。
  4. 契約期間中にアカウントの数を減らすことはできません。ただし、更新時に数を変更することはできます。

第2項で、入れ替えを回数で絞り、前任者の学習履歴を引き継がないと書いています。受講履歴や修了証を後任に引き継げるかどうかは、講座の性格で決めます。

受講履歴を会社に報告してよいのか:個人情報の整理

法人向けの研修を買った会社が、運営者に求めてくることの典型が、受講の進捗、視聴時間、修了テストの点数の報告です。研修の目的が社員教育であれば、会社が受講状況を知りたいのは自然です。一方、運営者の側から見ると、受講者の氏名や学習履歴は個人データであり、会社に渡すことは、法律上は第三者への提供に当たり得ます。個人情報保護法27条1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならないと定めています。

では、会社に提供する場合の整理は、どうなるのでしょうか。実務で見られる整理は、次の三つです。どれになるかは、取引の実態に応じて決まります。

受講履歴を会社に渡すときの三つの整理
整理の方法考え方規約・申込書に書くこと
本人の同意受講者本人の同意を得て、会社に提供する(同法27条1項)誰が、いつ、どの画面で、どの項目の提供に同意するのか。同意しない受講者の扱い。
委託会社が運営者に受講管理を委託する形で、運営者が取り扱う個人データを会社の指示の範囲で取り扱う(同法27条5項1号。委託先は第三者に当たらない)運営者は受託者として、会社の指示に従う範囲でのみ取り扱うこと。再委託、安全管理、漏えいの報告。
共同利用会社と運営者が特定の項目を共同して利用する(同法27条5項3号)共同して利用する項目、利用する者の範囲、利用目的、管理に責任を有する者を、本人に通知するか本人が容易に知り得る状態に置くこと。

どの整理を選ぶかは、運営者が受講管理の目的を自社のサービス改善にも使うのか、会社の教育のためだけに使うのかで変わります。

実務では、受講者が最初にログインするときに、「受講状況(進捗、視聴時間、テストの点数)が申込法人に報告されること」を表示して同意を取り、あわせて申込法人にも、受講者に利用目的を説明する義務を契約で負わせる形がよく見られます。利用目的は、できる限り特定しなければならず(同法17条1項)、特定した目的を超えて取り扱うには、あらかじめ本人の同意が必要です(同法18条1項)。また、会社から受講者の氏名やメールアドレスを受け取る場合、運営者は、本人から直接取得するのではない個人情報を取得することになるため、利用目的を本人に通知するか公表しなければなりません(同法21条1項)。

報告の範囲は、研修の目的に必要な範囲にとどめるのが原則です。テストの点数、質問の内容、チャットの発言、アンケートの自由記述まで会社に渡すと、人事評価に使われるのではないかという不安から、受講者が質問や回答をためらい、かえって研修の効果を損ねるおそれがあります。報告する項目を、契約の中で列挙し、それ以外は会社に渡さないと書いておくと、受講者への説明も簡単になります。受講者が参加するライブ配信やコミュニティで、他社の受講者に氏名や会社名が見えてしまう点は、コミュニティ・録画・個人情報で扱っている考え方と同じです。

条文例受講状況の報告の条(条文例)

  1. 当社は、申込法人に対し、受講者の氏名、アカウント、受講の開始日、進捗率、累計の視聴時間、修了の有無及び修了日を、月に1回、電子メールで報告します。
  2. 前項に定める項目以外の情報(修了テストの点数、質問及び回答の内容、チャットその他の発言、アンケートの自由記述を含みます。)は、受講者本人の同意がある場合を除き、申込法人に提供しません。
  3. 申込法人は、受講者に対し、前二項の報告を受けること及びその目的が受講者の研修の管理であることを、受講者が初めてログインする前に説明するものとします。当社は、受講者が初めてログインするときに、同内容を表示します。
  4. 申込法人は、前項により報告を受けた情報を、受講者の研修の管理の目的以外に利用してはならず、不要となったときは速やかに消去するものとします。
  5. 当社は、受講者の個人データの取扱いについて、個人情報の保護に関する法律に従い、安全管理のために必要かつ適切な措置を講じます。

第2項で報告しない項目を明示し、第3項で会社の説明と運営者の表示の両方を求めています。第5項の安全管理は、個人情報保護法23条に対応する定めです。

料金・期間・解約・責任の上限は、消費者向けとは別の発想で組む

消費者契約法の規定が及ばない法人向けの契約では、料金や期間、解約、責任の設計の自由度が広がります。次の事項は、法人向けの受講契約で調整が必要になります。

請求書払いと遅延損害金

法人向けの契約では、請求書を発行し、期日までに銀行振込で支払ってもらうのが一般的です。支払が遅れたときの遅延損害金は、消費者向けの契約では、年14.6パーセントを超える部分が無効とされます(消費者契約法9条1項2号)。法人間の契約には、この規定は直接及びませんが、法人向けの契約書でも、年14.6パーセントを使う例は多く見られます。たとえば、30万円の請求書の支払が30日遅れたとき、年14.6パーセントなら、300,000円×0.146×30日÷365日=3,600円となります。

中途解約と違約金:「平均的な損害」という言葉を書かない

消費者契約法9条1項1号は、契約の解除に伴う損害賠償の額の予定や違約金のうち、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効とします。この規定は消費者契約の規定であり、法人が当事者の契約には及びません。それにもかかわらず、法人向けの契約書の中途解約の条に「違約金の額は、乙に生じる平均的損害の範囲を超えないものとする」と書いてある例があります。消費者向けの条文の言葉を借りた書き方ですが、法人向けでは次の問題が生じます。「平均的な損害」とは何かを巡って、契約の相手方から違約金の減額を主張される根拠を、自ら用意してしまうからです。法人向けの契約では、残りの期間の料金の全額、あるいは何割、といった計算式を書き、その算定方法を契約書に明示するだけで足ります。

ただし、定めた違約金が、実際に運営者に生ずる損害に比べて著しく過大であれば、民法90条(公序良俗)や、違約金を賠償額の予定と推定する民法420条3項の下で、効力が争われる余地は残ります。また、研修の提供が準委任の性質を持つ契約と整理される場合は、各当事者がいつでも契約を解除できるのが民法651条1項の原則です。同条2項は、相手方に不利な時期に解除した場合などに損害賠償を求めることを定めており、中途解約の条件を特約で定めることで、この原則を調整します。

責任の上限と、故意・重過失の除外

賠償責任の上限は、法人向けの契約で最も交渉の対象になりやすい条です。実務では、上限を「直近12か月に支払った受講料の総額」とする例が多く見られます。月額60,000円(仮)の契約なら、60,000円×12か月=720,000円が上限になります。上限が受講料に比べて著しく低い(たとえば、金額を1万円と固定する)と、会社が合意しないだけでなく、争いになったときに、運営者の責任を実質的にゼロにする条項として、効力が否定される可能性があります。

もう一つの注意点は、故意又は重過失の除外です。故意又は重過失による場合まで責任を免除する条項は、法人間の契約でも、効力が制限される可能性が高いと考えられています。上限や免責の条には、「運営者の故意又は重大な過失による場合を除き」と書いておきます。この除外を置くことで、条項全体の効力を保ちやすくなります。

条文例責任の上限の条(条文例)

  1. 当社が本契約に関して申込法人に対して負う損害賠償責任は、当社の債務不履行、不法行為その他請求の原因のいかんを問わず、損害が発生した日の直前12か月間に申込法人が当社に支払った受講料の総額を上限とします。
  2. 当社は、逸失利益、間接損害、特別の事情によって生じた損害(予見可能であったか否かを問いません。)について、責任を負いません。
  3. 前二項の定めは、当社に故意又は重大な過失がある場合には適用しません。
  4. 当社は、本講座の受講によって、申込法人又は受講者の業績、成績、資格の取得その他の成果が得られることを保証しません。

第3項の除外は、上限と免責の条全体にかかるように、独立した項として置いています。法人間でも、故意・重過失まで上限や免責の対象とする書き方は避けます。

規約の変更

規約の変更は、法人向けでも問題になります。個別に条件を交渉して決める契約書は、民法の定型約款(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引で、内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なものについて、契約の内容とすることを目的として準備された条項の総体、同法548条の2第1項)に当たらないことが多く、その場合は、定型約款の変更の規定(同法548条の4)によって一方的に変更することができません。画一的な規約で申し込ませる形の法人向けサービスでは、定型約款に当たる場合がありますが、その場合でも、変更の効力発生時期を定めて事前に周知する必要があります(同条2項・3項)。実務では、変更の30日前までに通知し、重大な不利益を及ぼす変更には異議を述べる機会を設け、料金の改定に同意しない会社には効力発生日までの解約を認める、という形が見られます。

よくある失敗と直し方

法人向けの契約書を見直すときに、見つかりやすい誤りを、書き方の例として示します。条文は、論点を説明するために新しく書いたものです。

書き方の例(一般的な例) 法人向け受講契約でよく見られる書き方

申込者の位置づけ

出発点「会員は、本規約に同意した上で申し込むものとします。会員が法人の場合は、法人を会員とみなします。」だけで、受講者の位置づけがない。
整えた書き方「申込法人は契約の当事者とし、受講者は申込法人が指定する役員及び従業員とする。受講者は契約の当事者ではない。」と書き、受講者の同意の取り方を定める。

「会員」という一つの言葉に法人と受講者が混ざると、禁止事項の名宛人、解約の権限、個人情報の取得先が曖昧になるからです。

消費者向けの言葉の流用

出発点「違約金の額は、平均的な損害の額を超えないものとする。」を、法人向けの中途解約の条にそのまま置いている。
整えた書き方「中途解約の場合、申込法人は、解約の効力が生じた日の翌日から期間満了日までの月額料金の合計額を支払う。」と計算式を書く。

消費者契約法9条1項1号は法人には及びません。平均的な損害という言葉を残すと、減額を主張される根拠になります。

責任の上限

出発点「当社は、本サービスに関して一切の責任を負わない。賠償する場合の上限は1万円とする。」
整えた書き方「直近12か月に受領した受講料の総額を上限とし、当社に故意又は重大な過失がある場合は適用しない。」

全部免責と著しく低い上限は、法人間でも交渉で通りにくく、争いになれば効力を疑われます。除外を明記して条項を維持します。

ヒヤリングで確認すること

法人向けの受講契約書を作る前に、運営者の側で確認しておく事項と、その理由です。

ヒヤリングの問いと理由 法人向けの受講契約

  1. 申込みは、法人その他の団体に限りますか。個人事業主や、自治会・NPOなどの非営利の団体からの申込みはありますか。

    法人に限るか、個人事業主を事業のための申込みとして受け入れるか、非営利の団体を認めるかで、申込資格の条と確認の方法が変わります。

  2. 現在の申込フォームで、会社が申込者なのか、社員が申込者なのかを区別できますか。決済は誰の名義で行われていますか。

    契約の当事者が誰であるかを、申込みの記録から立証できる必要があります。社員が自分の名義で申し込み、会社の費用で支払う形が混在していないかを確認します。

  3. 1契約で何人まで受講できますか。記名式ですか。退職・異動で入れ替える運用はありますか。

    アカウントの数え方と入れ替えの回数、追加の料金の按分、更新時の人数の変更の条を決めるためです。

  4. 会社は受講の進捗やテストの結果の報告を求めてきますか。報告する場合、何の項目を、どの頻度で渡していますか。

    個人データの提供にあたり、同意・委託・共同利用のどの整理にするかを決めます。渡す項目を契約書に列挙するためです。

  5. 料金は、請求書払いですか、カード決済ですか。年額ですか、月額ですか。契約の期間は何か月ですか。

    支払期日、遅延損害金、自動更新、中途解約の計算式を、実際の運用に合わせて書くためです。

答えは一つひとつ、契約書のどの条に対応するかを意識して聞き取ります。

起きがちなことと、決めておくこと

法人向けの受講契約は、個人向けの規約を少し書き換えたものではなく、当事者・受講者・個人情報・料金・責任の五つを組み直した別の契約です。申込みの窓口を分け、契約の当事者を申込みの時点で記録し、受講者に守らせる事項と会社に報告する事項を書面に落とすところから始めます。決済の方法ごとの規約の書き方は講座代金の決済方法と規約で整理しています。

よくあるご質問

会社が費用を負担する社員研修なら、消費者契約法は関係ありませんか。

契約の当事者が誰かで決まります。会社が自分の名前で申し込み、自分で支払うなら、会社は事業者であり、消費者契約には当たりません(消費者契約法2条)。一方、社員が自分の名義で申し込み、会社が後で費用を補助する形であれば、契約の当事者は社員個人であり、事業のための契約とは言い切れない場合は、消費者契約として扱われ得ます。申込みの窓口を法人用と個人用で分けておくと、当事者を記録に残せます。

受講者を契約の当事者にしない構成にすると、どんな問題がありますか。

運営者が申込法人に対して受講者へのサービス提供を約束していると、受講者は、利益を受ける意思を表示した時に、運営者に対して直接サービスの提供を求める権利を持ち得ます(民法537条)。受講者の権利の内容と限度(解除や返金の請求はできない、など)を規約に明記しておきます。また、受講者の違反を会社が知らないのに一律に会社の責任とするのは過大になりやすいため、会社が指示した場合や知りながら是正しなかった場合に絞る書き方があります。

受講者の進捗やテストの点数を、会社に報告してもよいですか。

受講者の氏名と学習履歴は個人データであり、会社に渡すことは、本人の同意があるか、委託または共同利用に当たる場合を除き、第三者提供の制限(個人情報保護法27条1項)の問題になります。実務では、報告する項目(進捗、視聴時間、修了の有無など)を契約書に列挙し、受講者が初めてログインする画面で報告されることを表示して同意を取り、会社にも受講者への説明を義務づける形が見られます。テストの点数や質問の内容は、報告しない項目として分けておく方法もあります。

法人向けの契約書にも、年14.6パーセントの遅延損害金を書けますか。

書けます。消費者契約法9条1項2号は、消費者契約について年14.6パーセントを超える部分を無効とする規定で、法人が当事者の契約には直接及びません。ただし、極端に高い利率は、民法90条などの一般原則で争われる余地があります。法人向けの契約書でも、年14.6パーセントを使う例は多く、30万円が30日遅れたときの遅延損害金は、300,000円×0.146×30÷365=3,600円です。

法人向けの契約書の中途解約の違約金に、「平均的な損害を超えない」と書いてもよいですか。

書かないほうが安全です。消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害」は、消費者契約の規定であり、法人が当事者の契約には及びません。法人向けの契約書にこの言葉を残すと、相手方から違約金の減額を主張される根拠を作ってしまいます。残りの期間の料金の全額、あるいは一定の割合といった計算式を書いておくほうが明確です。極端に過大な額は、民法90条や420条の下で争われる余地があります。

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