このページの要点
- 辞退は禁じられない(民法651条1項)。期限後の自己都合の不実施は、実費を上限付きで負担する形で書く。
- 講師がフリーランスなら取引条件を明示し(フリーランス法3条)、成果連動の報酬は主催者が算定根拠付きの明細を出す。
- 受講生への勧誘の禁止は期間と範囲を絞り、違反は賠償の上限の外に置く。
- 講師への受講者情報の提供は委託。主催者に監督の義務がある(個人情報保護法25条・27条5項1号)。
結論:講師・運営スタッフとの契約は、「講義・録画・受講生」という講座に固有の論点で書く
オンライン講座が大きくなると、主催者一人では回らなくなり、外部の講師に講義を頼む、コミュニティの運営やサポートをスタッフに任せる、配信や決済の仕組みの構築を外注する、個別相談からの成約を営業の担当者に任せる、といった業務委託が増えていきます。一般的な業務委託契約書の雛形でも、報酬・秘密保持・損害賠償といった骨組みは作れますが、講座の運営では、講義の直前の辞退、講義の録画(アーカイブ)を使い続ける権利、講師による受講生の引き抜き、受講者の個人情報の扱い、講師の資格や経歴の表示といった、雛形にない論点が必ず出てきます。
アトラス行政書士法人では、オンラインのアカデミーを運営する事業者の講師業務委託契約書、講座とサブスクリプションを運営する事業者の外部講師の業務委託契約書と秘密保持契約書、講座の配信・決済の仕組みの構築と運用の契約、営業の業務委託契約などを作成・レビューしてきました。このページでは、それらの書類から、講座の業務委託に固有の条項を説明します。講師の雇用(労務)の問題は扱いません。講義の録画の著作権の整理は教材・ノウハウの保護で詳しく説明しています。
直前の辞退と代替講師
講義を引き受けた講師が直前に辞退すると、主催者は告知の修正、受講者への連絡、代わりの講師の手配、場合によっては返金に追われます。オンラインのアカデミーの講師業務委託契約の原案は、「3か月前までに申し出る」とだけ定め、違約金はなく、賠償の上限は委託料の総額(講義1回分)、しかも「直接かつ通常の損害」に限っていたため、期限を過ぎた辞退の効果が空白で、抑止の仕組みがない状態でした。講義の登壇は準委任の性質を持ち、講師はいつでも契約を解除できるので(民法651条1項)、辞退そのものを禁じることはできません。手当てできるのは、辞退した場合の金銭の負担です。
事務所の改訂例 直前辞退の条を組み替えた例(講師業務委託契約)
申出の期限
期限を緩めるのではなく、期限後の効果を具体的に書く方針にしました。
期限後の自己都合の不実施
何を負担するのかを講師が契約時に分かるようにしました。
負担の上限
賠償額の予定は罰金ではない、と講師にも説明しました。
負担がなくなる場合
主催者にとっても、講義が実施されることが最優先だからです。
外部講師の業務委託の別の契約では、主催者の都合で講義を中止する場合、通知が3日前より前に届いていれば報酬は発生しないが、講師が準備に支出した費用は、請求により実費と準備の程度に応じた額を払う、と定めました。講師側の通信の不具合で講義の一部が欠けた場合は、講師が無償で補講や補足の資料を出します。企業研修の講師との契約の例では、顧客の都合によるキャンセル料を実施日までの日数に応じて段階的に定め、準備の業務の報酬はキャンセルでも支払い、顧客からキャンセル料を受け取れなかったことを理由に講師への支払を減らさない、代わりの講師は事業者が選び講師が自分で代わりを立てることはできない、としています。
報酬・支払明細・支払期日とフリーランス法
講師やスタッフが個人(又は一人の法人)で従業員を使っていない場合、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の「特定受託事業者」に当たります。業務を委託する事業者は、委託したら直ちに、業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面又は電磁的方法で明示しなければなりません(同法3条)。委託する側が従業員を使っている「特定業務委託事業者」であれば、さらに、報酬の支払期日を役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内で定めること(4条)、6か月以上継続する業務委託を解除・不更新とするときは原則として30日前までに予告すること(16条)などがかかります。オンラインのアカデミーの案件では、委託する側に従業員がおらず3条だけが適用される前提でしたが、それでも60日以内の支払と30日前の予告・理由の開示を契約に任意で残しました。
報酬の決め方にも講座らしい論点があります。同じアカデミーでは、報酬が有償の受講者数や紹介の実績で決まり、講師の側では金額を計算できない仕組みだったため、主催者が算定の根拠を付けた支払明細を交付する形にしました(インボイスの要件は、買手が作成する仕入明細書で満たせます)。旧い報酬規程にあった「主催者は報酬規程を変更できる」という一方的な変更権は本文と矛盾していたので削除し、変更は双方の合意によるとしました。経費を差し引くのは「事前に合意した費用」に限り、内訳を示します。成果物の検収は「受領及び確認」に軽くし、「内容の当否を検査する義務を負わない」と明記して、内容の適否まで主催者が保証したように読まれないようにしています。
講師への支払で決めておくこと(外部講師の業務委託契約から)
- 支払明細を送る日(例:翌月5日まで)と、講師が異議を述べる期間(例:受領後7日以内)。
- 振込手数料は主催者が負担し、海外への送金も含めて全額が届くように送ること。
- 相殺できるのは、講師が承認したか、判決などで確定した債権に限ること。
- 事前収録の講義は、提出した日を実施日とみなすこと。
- 録画の利用の対価を講義の報酬と別に定める場合、計上の時期を遅らせて60日の期限を超えないようにすること。
- 講師が免税事業者であることだけを理由に、合意した報酬を減らさないこと。
外部講師の契約では、主催者からの解除や不更新にフリーランス法16条の予告を適用すること、同法に基づく申出や公益通報は秘密保持の義務の対象から外すこと、ハラスメントの相談や育児・介護への配慮の努力義務を書くことも定めました。心理面のサポートを伴うスクールの講師契約では、報酬の基準になる「担当受講生1名」の数え方(週1回以上の面談、30日に2回以上の応答、月次の報告を満たした受講生)を定義し、受講料を返金したときは提供済みの分を日割りで扱う、としています。アカデミーの講師契約のレビューでは、納入の期限と検収の期間が重なって修補の時間がない、屋号だけの当事者の表示では権利義務の主体が特定できない、不可抗力で実施できなかったときの報酬の定めがない(資料の作成は請負、登壇は準委任で、民法の規定に任せると結論が分かれる)、募集への協力の業務に対価の定めがない、といった点も指摘しました。
独立性:講師やスタッフを労働者のように扱わない
業務委託の講師やスタッフに、時間や方法を細かく指示し、依頼を断れない状態にすると、契約書の名前にかかわらず労働者と評価されるリスクが高まります。外部講師の業務委託契約では、講義ごとに依頼の事項を示し、講師が承諾して個別の契約が成立する方式にし、講師に承諾の義務はなく、主催者にも最低の発注の義務はない、と定めました。講義の内容と方法の裁量、兼業の自由も明記しています。カリキュラムの変更は通知で足りるとしても、個別の契約の内容と報酬の変更には合意が要ります。
配信や決済の仕組みの構築を受託した事業者の契約では、指示の窓口を依頼者の代表者に特定し、それ以外の人からの指示には従う義務がなく、確認が取れるまで保留できる、連絡への対応は目安であって作業時間や拘束時間を定めるものではない、と明記しました。心理面のサポートを伴うスクールの講師契約のレビューでは、運営の方針に従う義務や定例のミーティングへの参加の義務が従属性を基礎づける要素になり得るとして、講師の裁量と品質の基準を両立させる書き方に改めています。アカデミーの講師契約では、労働者と認定される可能性は高くないと見つつ、独立した当事者であることの確認の条を新しく設けました。代講を認めず講師本人が担当することを明記する場合は、代わりが利かないことがかえって労働者性を強める要素にもなる点を意識して、他の条項とのバランスをとります。
受講生の引き抜き・競業・秘密保持
講師は受講生と直接つながるため、講座の外で受講生を自分の顧客にしてしまう心配があります。アカデミーの講師契約では、受講者への勧誘の禁止を、契約期間中と終了後1年に限り、講義の場で行うものは除き、受講者からの自発的な連絡からも講師が誘いかけた結果の連絡は除く、と範囲を具体的にしました。資格試験の予備校の元役員・講師の競業の制限が争われた裁判例(東京地方裁判所平成7年10月16日決定)の枠組みに照らして有効と評価し、明文の特約がなければ元の取引先への働きかけが不法行為とされにくいことを示した最高裁判所平成22年3月25日判決から、明文の条項を置く意味と、違反を賠償の上限から外す必要を説明しています。
外部講師の業務委託契約では、講義の中で自分のサービスを宣伝しないこと、講師が自分で講義を録画しないこと、受講者から範囲外の依頼(個別の指導など)を受けたら応じずに報告すること、受講者の個人情報が写った画面を撮影しないことを定め、受講者・提携先・他の講師の引き抜きを契約期間中と終了後1年禁止しました。秘密保持契約と業務委託契約の秘密保持の条は重ねて適用し、厚い方を優先します。一方で、退任した後も、過去に講師を務めたという事実は客観的に表示できる、としています。心理面のサポートを伴うスクールの講師契約では、契約期間中と終了後6か月の競合講座の禁止と受講生の勧誘の禁止に加えて、不安をあおる・成果を断定する・依存を助長する言動の禁止を置きました。講師が主催者の肩書を自分の宣伝に使えるかどうかの範囲と期間も、勧誘の禁止とは別に決めておくよう指摘した例があります。
講師紹介と業法の広告規制・受講者の情報の提供
講師の資格や勤務先を紹介文に載せるときは、その資格の業法の広告規制に注意が要ります。動物医療の資格者が講師を務めるアカデミーでは、獣医療の広告の制限(獣医療法17条)が「何人も」を名宛人にしているため、広告主である主催者も規制の対象になり得る点を検討しました。そのうえで、獣医療広告のガイドラインが講演会などは通常は誘引性を持たないとしていること、特定の診療施設への誘引性が問題になることから、講座の講師紹介そのものが直ちに規制に触れる危険は高くないと評価しています。それでも残る点として、勤務先の病院の所在地・電話・リンクを講師紹介に載せると誘引性が生じること、「認定医」「専門医」といった表示は景品表示法の優良誤認の問題になり得ること(同法5条1号)を挙げ、ホームページとバナー・拡散型のSNSで媒体を分けて考え、講師紹介に載せる事項を確認する書面を別紙にしました。
アーカイブは講演会ではなく主催者のコンテンツになり、受講者以外が見られる状態になると評価が変わり得るため、視聴できる人を視聴の時点の受講者に限っています。個別の診療にわたる助言をしないことは講師を主語にして定め、違反は賠償の上限の外にしました。講師に受講者の情報を渡すことは個人データの取扱いの委託に当たり(個人情報保護法27条5項1号)、主催者には委託先を監督する義務があるため(同法25条)、講師契約に個人情報の取扱いの条を詳しく置いています。受講者向けの規約の側でも、外部講師の過失を主催者の賠償の上限の対象に含めるため、主語に「その使用する者(講師を含む。)」と明記しました(受講規約・受講契約書の条項Q&A)。
配信・決済の構築、コミュニティ運営、営業を外注するとき
講座の配信・決済の仕組みの構築と運用を受託する事業者の契約では、構築は請負、運用は準委任として書き分け、基本契約・業務明細・個別発注の三層にしました。原稿の作成や表示の法令適合性の判断など「やらないこと」と、作業量の上限・超過の料金も定めています。責任の分担では、価格や特商法表記などの表示の内容を決め、法令に適合させるのは運営者、配信や決済の本番への反映は運営者のテストと承認が必須(承認どおりなら受託者は責任を負わない)、受講者への返金や解除の判断は運営者(受託者は運営者の名義で連絡の事務だけを行い、勧誘の義務を負わない)、としました。アカウントは運営者の名義で作り、受託者には最小限の権限だけを与え、有料のオプションの申込みや返金の操作は禁止し、バックアップは運営者が持ちます。受講者の個人情報を生成AIに入れるには、サービスの名前と提供者の所在国を示して承諾を得る、とも定めました。
同じ契約では、月額の報酬は講座の募集(ローンチ)を行わない月も減らさないこと、業務量の基準を「標準的なローンチ1件」とし、業務量が続けて基準を超えたら受託者が見直しを求められることを定めています。成果物の検査は5日とし、期限を過ぎれば合格とみなし、合格後の不適合は一定の期間内に通知されたものに限り修正します。契約が終わるときは、設定の一覧を引き渡すところまでを月額の業務に含め、それを超える引継ぎは時間単価で計算します。受託者が以前から持っている汎用のテンプレートの権利は受託者に残す、と区別しておくことも、後の争いを防ぎます。
依頼者から契約の簡素化を求められた14の項目は、「法律の義務と重なるか」「自分を守る条項か」「削ったときの民法の標準のルールは何か」の三つの問いで一つずつ判定しました。受注者の立場で作った構築・運用の支援の契約では、みなし承認は検収と進行の管理にだけ効き、公開や予約投稿の根拠にはならない、価格・実績・効果・顧客の声を含む投稿は投稿ごとに明示の承認を要する、未払いがあってもアカウントの権限・個人データ・認証情報の返還は留保できない、としています。
受講生のコミュニティの運営やサポートを任せるスタッフについては、マネー講座の契約書で、運営の一部を委託することと委託先を監督することを受講者に示し、発言のガイドラインを運営の受託者にも適用しました。SNS運用講座の運用マニュアルでは、スタッフに業務を委託するときは条件をLINEで示し、承諾の返信を保存する手順を入れています(フリーランス法3条の明示)。個別相談からの成約を担当する営業の業務委託では、業務をオンラインの面談に限り、訪問や電話での営業は書面での承諾を要する、面談の録画は顧客の同意を条件とし同意がなければ詳しい面談記録を出させる、記録は6か月保存して削除する、報酬は実際に受け取った額に一定率を掛け、返金があれば報酬を相殺する、報酬体系の変更は1か月前に通知し営業担当者は異議を述べて解除できる、と定めました。営業の担当者がオンラインの面談で行う勧誘も、主催者の電話勧誘販売として規律がかかり得る点に注意します(Zoom個別相談・無料セミナーと電話勧誘販売)。
ヒヤリングの問いと理由 講師・スタッフとの契約を作る前に確かめること
講師は個人ですか、法人ですか。主催者の側に従業員はいますか。
フリーランス法のどの規定がかかるかを決めるためです。
報酬は固定ですか、受講者数や紹介実績に連動しますか。
算定の根拠と支払明細の作り方を決めるためです。
講義を録画して配信しますか。講師が辞めた後も使いますか。
録画の許諾・期間・解除後の扱いを決めるためです。
講師は受講生と講座の外で連絡を取ることがありますか。
勧誘の禁止の範囲と期間を決めるためです。
講師紹介に、資格・勤務先・肩書を載せますか。
業法の広告規制と景品表示法の確認が要るためです。
講師やスタッフに受講者の個人情報を見せますか。
委託先の監督と取扱いの条を置くためです。
起きがちなこと
よくあるご質問
外部講師に講義を頼むとき、業務委託契約書に何を書けばよいですか。
業務の内容と報酬・支払期日に加えて、直前の辞退や中止の扱い、講義の録画の許諾と配信の期間、受講生の勧誘の禁止、秘密保持と生成AIへの入力の禁止、受講者の個人情報の扱い、講師紹介に載せる事項を定めます。講師がフリーランスなら、取引条件を書面などで明示します。
講師が辞めた後も、講義の録画を使い続けられますか。
講師との契約で、録音・録画の許諾、編集の範囲、配信の期間、契約が終わった後や解除された後も許諾が続くことを定めておけば使い続けられます。定めがないと、講師が辞めた後の利用をめぐって争いになるおそれがあります。
講師の直前キャンセルに備える方法は。
辞退そのものは禁じられないので、期限までの申出なら負担なし、期限後の自己都合の不実施なら代わりの講師の費用などの実費を上限付きで負担してもらう、代わりの講師を推薦して実施されれば負担なし、という形で具体的に定めます。
講師が受講生を個人的に引き抜くのを防げますか。
契約期間中と終了後の一定期間に限り、講座の受講者への勧誘を禁止する条項を置くことができます。講義の場でのやり取りや、受講者からの自発的な連絡の扱いも定め、違反は賠償の上限の外にしておくと実効性が上がります。
講座の配信・決済システムの構築を外注するとき、責任分担はどう決めますか。
表示の内容と法令への適合は運営者、本番への反映は運営者のテストと承認が必須、返金や解除の判断は運営者、と分けるのが基本です。アカウントは運営者の名義で作り、受託者には最小限の権限だけを与えます。
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本ページは一般的な情報提供です。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたオンライン講座の受講規約・受講契約書、電話勧誘販売の契約書面・申込書面、特定商取引法に基づく表記、プライバシーポリシー、分割払いの合意書、講師・運営スタッフの業務委託契約書、講座の構築・運用の受託契約などを、個別の事業者や講座が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。裁判例は、事務所の報告書・回答書で検討したものを、判決日と要旨とともに紹介しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 個人情報保護委員会 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)